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川面美術研究所からのお知らせ

毎日新聞連載「心と技と」建造物装飾 川面美術研究所-1

毎日新聞連載「心と技と」 建造物装飾 川面美術研究所

 

障壁画から神馬まで

 

先週までの連載で、宮大工棟梁、細川豊一(75)と京の寺院を訪ねる旅を重ねるうち、気になりながらその場を通り過ぎることがしばしばあった。妙心寺塔頭、退蔵院本堂(重文)の復元杉戸絵、新築された寂光院本堂の内陣に描かれた極彩色、大徳寺唐門(国宝)の復元彩色……。あるものは、古の香りそのままに、またあるものは、新たな命の光彩を放っていた。宮大工の仕事に続き、今週からはこうした建造物装飾の世界を歩いてみたい。【池谷洋二】

 

京都市右京区鳴滝本町。無人の京福電鉄・高雄口駅で降りて、ゆるやかな勾配の周山街道を北へ。名残の紅葉を求める人か、片道1車線の狭い道をひっきりなしに車が行きかう。約5分ほど歩いた街道沿いに、川面美術研究所の福王子アトリエがあった。

川面美術研究所は、昨年1月に91歳で亡くなった、建造物彩色の第一人者で国の選定保存技術者だった川面稜一が設立した工房である。現在は川面の二女で、京都教育大学非常勤講師の荒木かおり(48)を中心に、18人のスタッフが川面の遺志を継ぎ、二条城二の丸御殿の障壁画復元模写や文化財修復・復元に取り組んでいる。

「工房の仕事を一言で表現するのはむずかしくて……。最近では、建造物装飾と紹介しているのですけど」

そう、荒木が言うように、「建造物装飾」というのは宮大工や瓦職人のような一般的な名称ではない。川面が選定された保存技術は、冒頭に書いた大徳寺唐門のような、文化財建造物に彩色する分野に限定されたものだし、障壁画や襖絵を模写する専門家は模写画家、模写絵師などと呼ばれる。

川面美術研究所はこれに加え、新築社寺のデザインから舞台美術まで手がけ、建物とそれに付随する彩色装飾全般がテリトリー。既成の名前では収まりきれないのだ。

しかし、だからといって、社寺といえば思い浮かぶ朱色の柱や壁。あれは、工房の仕事ではないというからややこしい。大ざっぱに言えば、塗装ではなく絵、素人目にも「これは、画家が手がけたんだろうな」と思うような領域。荒木の話を聞いて、とりあえずそんなイメージを持った。

工房2階のアトリエをのぞいてみる。床一面に並べられた制作途中の襖絵。これは、築城400年の07年完成を目指して復元工事が進む熊本城本丸御殿に入る襖絵という。加藤清正が築城した熊本城は、1877(明治10)年の西南の役で炎上、一部を残して燃え落ちた。その後、天守閣などが復元されたが、来年には本丸御殿をはじめ往事の威容がよみがえるのだとか。

ただし、燃え落ちた本丸御殿の資料は乏しく、燃える前の襖絵は、例えばこの面に「鶴」、こちらには「馬」が描かれていた、ぐらいしかわからない。もちろん、写真などもない。そこで、「狩野派なら恐らく、こんな感じ」と、学者と意見交換しながら描いているという。それなら、復元というより、創作復元?

さらに、1階に下りると、大きな白馬の木像がいたのでビックリ。正月を控えて、伏見稲荷の神馬がお色直しにやってきているのだとか。これも、工房の仕事なのか。

 

荒木が表現しにくいと言ったはずである。川面美術研究所の仕事は多岐に渡り、私も全体をつかみきれず、うろうろするばかりだった。

(毎週木曜日掲載。次回は21日。文中敬称略)

 

建造物装飾がわかる

現在、中京区三条高倉の京都文化博物館2階歴史展示室で常設展示中の「匠の世界」に、川面美術研究所のコーナーがある。建造物彩色を中心に、工房の仕事をパネルやレプリカなどを使って紹介しており、建造物装飾の入門編といったところ。常設展入場料は、一般500円、大高生400円、中小生300円。川面美術研究所のコーナー展示は来年1月中旬まで。月曜休館。京都文化博物館(075・222・0888)

毎日新聞 平成18年12月14日掲載

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